兵法二天一流玄信会で、最初に行う前八の鍛練が調息法です。調息法は、毎回の稽古の初めにも必ず行うもので、呼吸を通じて身体にスイッチを入れるような効果があります。このページでは、調息法の鍛練の意義、ポイントを説明します。
1章:調息法を鍛練する意義
調息法は、深く呼吸しながら二刀を振る鍛練です。
人間は誰しも生まれてから死ぬまで呼吸し続けていますが、普通の生活では呼吸の仕方など習うことはありません。しかし、当会は二刀を用いて真剣勝負で戦えるだけの技と精神を身につけることを本質としていますので、呼吸の仕方もそれに見合うものでなくてはいけません。真剣勝負では、高い緊張度の中で重い真剣を使って戦わなければなりません。そのため、緊張しないこと、疲れないこと、動きを制限しないこと、相手に動きを読まれないこと、といったことに注意して呼吸しながら戦う必要があります。そのためには、それを可能とする呼吸を意識せずとも行えるようにならなければなりません。
そのような呼吸法と、二刀を扱う動きを一致させていくために、調息法という鍛練があるのです。
このように、呼吸のような動作1つをとっても、二天一流の本質から考えていくことが大事です。
こうした理由から、調息法は毎回の稽古の最初と最後に行っています。このように行うことで、稽古を始めるために身体にスイッチを入れること、また稽古を終えて疲れた身体を癒すことなどの効果があるのです。
2章:調息法における呼吸法
調息法の流れを説明する前に、呼吸の仕方について説明します。
(1)腹式呼吸・完全呼吸をする
調息法は、全て腹式呼吸で行います。腹式呼吸とは、息を吸った時に胸ではなくお腹が膨らみ、息を吐くとお腹が萎む呼吸法のことです。胸が膨らんだり萎んだりしないように呼吸することが大事です。
また、調息法は完全呼吸で行います。完全呼吸とは、吐いたときは肺の中の空気が全て出尽くすまで吐く、吸うときはこれ以上は少しも吸えないと思うまで吸う、という呼吸法のことです。余力を残して呼吸しないことが大事です。ただし、完全呼吸をしようとすると上半身を揺らしたり、首を傾けたり、姿勢を崩したくなるかもしれませんが、姿勢はあくまで最初から最後まで真っ直ぐキープしたままにしてください。
呼吸は全て鼻から行います。
(2)腰も膨らむようにする
腹式呼吸の場合、通常は「吸った時にお腹が膨らむように」と指導されますが、それだけではなく腰(背中の下部)も膨らむように呼吸することが大事です。わざと力を入れて腰を膨らませるのではなく、空気が入ることで自然に腰が膨らむようにします。息を吐いたときは、お腹と腰が同時に萎むことになります。
(3)呼吸と動作を合わせる
調息法では呼吸をしながら二刀を振るのですが、この呼吸と動作が一致していることが大事です。吸い始めるのと同時に動き始め、吸い切ったところで動きを止める、吐き始めるのと同時に動き始め、吐き切ったところで動きを止めることが大事です(ただし、動きを止めてから吐くような動作もありますので後述します)。
(4)最初から最後まで動きがつながっている意識を持つ
調息法は、呼吸をしながら様々な動作を繰り返しますが、最初の種目の最初の呼吸から、最後の種目の最後の呼吸まで、全て繋がった動作であると意識して行うことが大事です。呼吸を終えて、1つの種目を終えたところで気を抜いてしまわないようにしてください。
3章:調息法の鍛練の流れ
これから調息法の鍛練の流れを説明します。最初は、深く呼吸しながら特にゆっくり行うことが大事です。
(1)整息(せいそく)する
まず、足を肩幅より少し狭いくらいの幅で開き、リラックスして立ちます。二刀は下段です。十分に力を抜いて正面を向きます。
この状態で、整息(せいそく)します。これは、自然に数回呼吸して息を整えることを言います。息が上がっていたら、これから行う呼吸が十分に行えないためです。
(2)息を吸いながら中段
整息を数回したら、その流れで肺の中の空気が全て出るまで、息を吐ききります。そして息を自然に吸い込みながら、下段から中段へと二刀を上げます。二刀を上げたところで、一旦止めます。この時、息を吸い込み切らずに止めるようにしてください。
(3)息を吸いきりながら頭上で十字
中段からは、息を大きく限界まで吸いながら、その調息法における動作を行なって二刀で十字を組み、頭上で止めます。吸い切った息を、頭上の十字で押さえて蓋をするような感覚で行ってください。頭上で組んだ二刀は小太刀が上に来るようにし、十字の交点が頭の中心に来るようにします。二刀は、自分の頭にくっつけるわけではありませんが、ギリギリつかず離れずくらいの距離まで近づけます。二刀の交点がずれないように力を入れておくことも重要です。
調息法は4種目ありますが、この4つのそれぞれで動きが異なるのはこの(3)における中段から頭上で十字を組むまでの動きだけです。したがって、この部分についてこれから説明します。
①天位直通(てんいじきつう)
これでは、中段における二刀の形を崩さず、中段からそのまま両手でバンザイするように地面と垂直に二刀を上げます。横から見た時、頭上に垂直に二刀が掲げられている状態になります。ここから、二刀を組みます。
②切先返
切先返では、中段から二刀を同時に切先返しながら十字に組みます。二刀が正面に向かって突き斬りの状態で伸びていくように切先返します。
③陰陽交差(いんようこうさ)
陰陽交差は、両方の肩甲骨を一気に前・上方にせり出し、その力によって二刀を十字に交差させそのまま頭上に持っていきます。二刀を交差する動きより、肩甲骨をせり出す動きを意識します。肩甲骨をせり出させることによって、自然に二刀が交差されます。もし小太刀が上(頭上に持ってきたときの下)に来てしまったら修正する必要はありませんが、正しい形としては頭上で小太刀が上にくる形です。
④流水
中段から、胸を開くように使って左右に二刀を開きます。二刀が自分の身体の真横に来るように開いたところで停止し、肩甲骨を使って二刀を返します。肩甲骨主導で腕・刀全体を動かし、拳の掌側が上を向く向き、刃が正面を向く向きになります。
ここから、二刀を後ろを回して頭上に持ってきて、十字を組みます。この時、二刀を開いた時の切先の位置に地面と水平に平面があると考え、その平面上を切先が滑るように動くようにします。できるだけこの平面から切先を上下に動かさないように動かします。横に開いたところから直線的に十字の位置に持ってこないようにします。
(4)十字から切先を背中側に落とす
上記の動作で十字を組んだら、拳を開いて四指を天に向けるように伸ばし、同時に両手の肘を真っすぐに伸展させます。この動きによって二刀の切先が背中側にストンと落ちます。柄頭が天を突くようになり、刀全体が横から見たときに垂直に近い角度になります。正面から見たとき、二刀が地面から垂直になっています。
手は拳を開いて、四指と掌で挟むように刀を把持しますが、この開いた掌が正面から見えないようにします。つまり、正面から見ると手の小指側の側面のみが見え、両手の掌が向き合うようになっています。この状態で、刀を後ろから引かれても刀が抜かれないように、しっかり把持することが大事です。掌を開いたからといって、力を抜いて良いわけではありません。
この刀の振り上げの動作は、身体全体が真下に落下し、その勢いで刀が上に上がるような意識で行います。手の力で刀を扱う意識はできるだけ持たないことが大事です。
また、(4)~(6)の一連の動作の間、実際には一瞬で行いますので、息は止めたままです。
(5)落とした切先を天に振り上げる
二刀の切先が背中側に落ちたところから、頭上に切先を振り上げます。
掌は開いた状態になっていましたが、ここから手を握りこむと同時に切先が下から真上に振りあがるようにします。二刀は横、前から見たときに垂直に立つ形になります。ただし、この振り上げの動きでも肘は使わず、肘は完全伸展させたままにします。手以外の部分は使わないため動きません。
(6)斬り下ろす
二刀を頭上に上げたところから、二刀を腰の位置までゆっくり斬り下ろしていきます。この時、2通りの鍛練法があります。
①手の内の力を完全に抜いて重みだけで斬る
頭上に二刀を上げたところから、手の内の力を抜いて二刀を木剣の重みだけで落とします。重みで落とすため、腰の高さで止めません。身長が低い人であれば太刀が地面に当たりますが、そこまで落とすことが大事です。地面に当たるまで落とした後で、腰の高さで地面と水平に二刀を戻し、手の内を締めます。
この時「斬る」という意識は持たず、ただ二刀を落とすことによって木剣の重みを手の内で感じ、重みで斬るという感覚を覚えることがこの鍛練の目的です。
②手の内を締めて背中を使って斬る
もう1つのやり方が、頭上に二刀を上げた状態から拳をしっかり握りこみ、肩甲骨を前にせり出しながらゆっくりと斬り下ろしていくものです。この時、木剣の重みよりも手の内を締めること、下筋を使うこと、背中を使うことを強く意識することが大事です。目の前に柔らかい肉や粘土のようなカタマリがあり、それを背中の力でゆっくり斬っているような感覚を持って行ってください。
いずれの斬り方でも、二刀は肩幅くらいで並行になるようにします。二刀が開きすぎたり、肩幅より狭くならないようにしてください。
この①、②の鍛練法は初心者用のもので、それぞれのやり方が身についたら通常の斬り方にしていきます。この方法は後述しますが、初心者はまずは①、②のやり方を繰り返し行ってそれぞれの感覚を身に付けてください。
(7)息を吐ききりながら下段になる
(6)の動作で二刀を腰の高さで止めています。この状態まで息を止めたままで行っているため、ここから息を吐きながら下段にゆっくり戻っていきます。この時、全身の力を抜いてリラックスしつながら、下段になった時には息を吐ききっている状態になります。動きと呼吸がずれないように行ってください。
息を吐ききったら、苦しくなってまた吸いたくなると思います。そこで、自然に吸いながら下段に上げて、次の調息法に移行していきます。
全体の順番としては、天位直通、切先返、陰陽交差、流水の順で行います。
4章:発展型(通常型)の調息法
3章で説明した調息法は初心者向けのものです。初心者は、とにかくこの方法を繰り返し行ってください。ある程度上達したら、振り上げ、斬り下ろす動作を止めず、一連の動きとして行います。
まず、頭上で十字に組むところまでは同じです。ここから、通常のやり方では、刀の振り上げから斬り下ろしまでを止めずに行います。つまり、3章の(4)~(6)の動作を一連の動きとして統合して行うのです。
この時、(4)~(6)で意識したすべてのポイントを含んだ動きとして行うことが大事です。つまり、肘を完全伸展させ、切先が落ちる動きで振り上げ、そのまま止めず、拳を握りこむことで斬りはじめ、刀の重みを感じながら手の内を締め、背中を使って斬り下ろすということです。
なかなか最初は、すべてのポイントを意識しながら鍛練できません。そのため、初心者用の鍛練法を繰り返し行わなければならないのです。もしこの通常の動きで意識できていない部分があることに気づいたら、また初心者用のやり方に戻して鍛練してください。
この繰り返しによって、次第に通常型の方法でも行えるようになります。