兵法二天一流玄信会では、初心者は前八という基礎的な鍛練法の中の、8つ目の鍛練法である「基本練技」において、刀(居合刀)を使っての抜打ちの練習を行います。
抜打ちとは、刀が鞘の内に入った状態から抜き放って斬る動作のことであり、基本練技では3つの抜打ちを鍛練します。これが「縦抜打ち」「横抜打ち」「下抜打ち」です。
この3つの抜打ちの鍛練に入る前に、行わなければならないのが納刀の鍛練です。納刀とは、刀を抜いた状態から鞘の内に戻す動作のことですが、ただ鞘の内に刀を戻すだけだからと軽く見てはいけません。納刀の鍛練自体が、二刀を扱うための鍛練にもつながっているのです。
会員向けに、当会における納刀の鍛練方法を簡単にまとめます。
1章:納刀の鍛練の意義
まず、納刀の鍛練の意義を確認しておきましょう。
そもそも、兵法二天一流玄信会におけるすべての鍛練は、「二刀を扱うため」に行うものです。そのため、前八で行う基礎的な身体の鍛練方法はもちろんのこと、抜打ちや抜刀術、一刀や小太刀の鍛練も、すべて二刀を自由に扱って戦えるようになるための鍛練法なのです。
納刀の動作として、他流の中には、右腕を主体として使って、右肘の伸展や右肩を使った動きで納刀することもあるようです。しかし、このような鍛練では、右手の鍛練にしかならず、二刀を扱う鍛練としては不十分です。
そこで当会の場合は、左手も積極的に使って納刀することで、この最初の鍛練の段階において両手をしっかりと意識して使えるように鍛練できるようになっています。
また、右手主体の納刀に比べ、左手も使う納刀は安全であるという意味もあります。
特に初心者においては、右手主体の納刀では鯉口を掴んだ左手を傷つけてしまうことがあるため、左手も使ってしっかり鞘引きして納刀するように行っています。
簡単ではありますが、これが両手を使った納刀の鍛練の意義です。
2章:納刀の鍛練の流れ
納刀の鍛練は、まずは基礎的な流れを正確に、ゆっくり行うことが大事です。
①左手の動き
流れとしては、まず左手で鯉口を握ります。この時、人差し指と中指の半分くらいまでが鯉口の外に出る形になり、左手で鯉口を少しふさぐようにします。このようにすると、刀が手に触れるため一見危険に見えるかもしれませんが、この方がかえって安全なのです。
この形で鯉口を握ったまま、左肘が完全伸展するまで鞘を前に出します。鯉口が、自分の臍の真正面に来る形になります。また、この時、鞘を真横に倒して刃側が外を向くようにします。
➁右手の動き
この状態で、今度は右手で刀と鞘がT字になるように持ってきます。
刀の峰側のちょうど真ん中あたりが、鯉口に接するようにします。この時、右肘も完全伸展させます。ここでキープしようとすると少し重く感じるかもしれませんが、刀を左手の人差し指の上に置いて右手を休ませるようにはしないようにしてください。
③鞘引き
ここから左手だけを動かして、鞘をゆっくり引いていきます。
刀の峰と鯉口は接させたまま、スライドさせていきます。左手を引ききったところで、切先が鯉口から鞘の中に入ります。それを左手の感触で確かめたら、今度は左手を再び元の位置まで伸ばし、納刀していきます。この時、真横に倒した鞘を少しずつ立てていきます。
左肘が伸び切るところまで伸ばします。すると、左肘を伸ばし切っても数センチ納刀しきれない部分が残ると思います。この部分は、右の伸ばし切った肩甲骨の力を抜いて、縮めることで、納刀するようにします。
これが、納刀の流れです。
ここに書いた細かい流れはすべて意識して行うようにしてください。
重要なポイントは、右手は最初にセッティングした場所から、納刀を完了するまで動かさないということです。つい右肘を曲げたり、右肩を使って刀を動かして納刀の動きを助けたくなるのですが、そのようなことがないようにしてください。
玄信会の納刀は、左手の働きを主体として納刀するものなのです。
3章:納刀の鍛練における間違いの例
納刀の鍛練における間違いの例をいくつか示します。
①右手を使う
前述したように、右手は最初の場所から動かしてはいけません。
また、右肘は伸ばしたまま曲げないようにしてください。右手を動かしてしまったら、練習を最初からやり直すように意識して行いましょう。
➁鞘尻が下に落ちる
納刀の鍛練で、もう一つ意識しなければならないことが、鞘尻の動きです。
鞘尻は、地面と水平の面を滑るように動くようにしなければならず、これが下に落ちてしまうといけません。
納刀の動きは、自然に任せていれば鞘尻が下に落ちてしまいますので、左手で鞘を下に押さえつけるようにして、鞘尻が下に落ちないようにします。鞘尻が、最初にT字を作った時の高さから、納刀の動きを通じて同じ高さをキープできるようにしてください。これは、後述する応用的な練習でも鍛練することができます。
③納刀時にすぐに立ててしまう
鞘は、納刀する時は真横に倒しておきます。そして、切先が鞘に入ってから少しずつ鞘を縦に立てていくのです。そのため、切先が入った瞬間に気を抜いて、鞘を立ててしまうことがないようにしましょう。逆に、真横のまま納刀して最後の最後に鞘を立てるような動きも間違いです。
④刀に目線が向いている
最初は刀・鞘を見ながら鍛練しても良いですが、できるだけ早い段階で見ずに納刀できるようにしなければなりません。刀を見ず、敵に隙を見せないように正面を向いて納刀できるように鍛練しましょう。
この他にも注意点はありますが、上記が最も多く見られる間違いですので、よく覚えておいていただければと思います。
4章:納刀の鍛練の発展版
前述のように、鞘引き時には鞘尻を下に落とさないことがとても大事です。この左手の動きを身に付けることは、抜打ち・抜刀術における鞘引きの動きの鍛練にも直結しています。
しかし、立った状態で納刀の鍛練をしても、つい鞘尻が下に落ちてしまいそれに気づかないこともあります。そこで、納刀の鍛練を正座で行います。この方法だと、鞘尻が下がると地面に当たってすぐに分かるため、鞘尻を下げない納刀の鍛練にとても良いのです。
正座で納刀ができたら、次はあぐらで行います。あぐらでは、さらに地面との距離が近くなるため、鍛練が難しくなります。
これらの鍛練を繰り返し行うことで、左手を使った納刀が自然にできるようになり、抜打ちの鞘引きも上達していくことができます。