二天一流剣術の「ねばりをかける」

鍛練体系

【二天一流の技法「ねばりをかける」】敵の太刀との接点をずらさない技術

二天一流剣術の技の技法の中に「ねばりをかける」という技法があります。

これは、敵に太刀を受けられたときに、自分の太刀と敵の太刀がくっつき、離れないようにする技法のことです。

現代剣道では使われることがないように思われますが、実戦では受け、太刀が合わさり、そこからの攻防にも対応する技法が必要です。その場合、この「ねばりをかける」技法の有無が大きなアドバンテージになるのです。

「ねばりをかける」とは

「ねばりをかける」について『五輪書』では「水の巻」の「入身法」の中で解説されています。

「入身法」とは、敵の懐に入り込み身を接近させる体捌きのことです。この「入身法」では5つの方法が解説されているのですが、その1つが「ねばりをかける」です。

五輪書では、以下のように解説されています。

一、ねばりをかくると云事

敵も打かけ、我も太刀打かくるに、敵うくる時、我太刀、敵の太刀に付て、ねばる心にして入也。ねばるは、太刀はなれがたき心、あまりつよくなき心に入べし。敵の太刀につけて、ねばりをかけ、入時は、いか程も静に入てもくるしからず。ねばると云事と、もつつると云事、ねばるはつよし、もつるるはよはし。此事分別有べし。

日本刀の表面は磨き上げられており、つるつるしています。また、反りがあるため、本来なら太刀と太刀が合わさる接点は極めて滑りやすく、簡単に接点が外れてしまいます。

しかし、接点が外れることを、宮本武蔵は「もつるる」と言い、これを「弱い」と言っています。

本来なら極めて滑りやすい刀ですが、その接点をくっつけるようにすることで、敵の太刀の動きを封じ、コントロールできるのが「ねばりをかける」という技法です。また、『五輪書』では、敵に受けられた場合の技法として紹介されていますが、逆に自分が敵の攻撃を受けた場合も、同様に使うことができます。

二天一流剣術の「ねばりをかける」

ただし、これは難易度が高い技法であり、かなりの鍛練が必要です。

そのため、二天一流玄信会では勢法(型)における組太刀を通して、この「ねばりをかける」も鍛練するようになっています。

「勢法(型)」ではどのように鍛練するか

実際の鍛練方法を紹介します。

組太刀では、たとえば勢法一刀之太刀の10本目「数喜」や、勢法二刀合口漆膠の4本目「石火之打」で鍛練します。

「数喜」の場合、最初に打太刀の正面切りを、自分の木剣を真横に倒して受け、打太刀の太刀を払い落とす動作があります。※画像参照

二天一流剣術の型「張受」1

この時、打太刀の身体の左後方に向かって木剣を払い落とし、その動きで打太刀の身体を崩すことが大事なポイントです。しかし「ねばりをかけ」ていないと、払い落とす時に太刀と太刀の接点が滑り、打太刀の木剣が真下、つまり身体の前方に落ちることになってしまいます。

こうなると、こちらが次の挙動に移る前に打太刀に変化されて、追撃を受けることになってしまいます。

さらに打太刀が、受けられたそのままの姿勢で力を込めてこちらを潰そうとする場合、これも「ねばりをかけ」ていないと、払い落とすことができず逆にこちらの重心が崩されてしまいます。

これは、二刀合口「石火之打」でもまったく同じです。

このように、実際の稽古の中では、ねばりをかけられているか、かけられていないかが明確に動きの中で分かるため、ねばりをかけるとはどういうことか?どうやって鍛練していくのか?ということが身体感覚を通して分かります。

また、打太刀をつけて鍛練することで、少しずつ段階を経て「ねばりをかける」技法を磨いていくことも可能です。

「ねばりをかける」の応用

こうして「ねばりをかける」を身につけると、互いの太刀が合わさるあらゆる場面で活用することができ、敵の動きをコントロールできる場面が増えます。つまり「ねばりをかける」ができるかどうかで、戦いをはるかに有利に運ぶことができるのです。

二天一流の技は、見た目上の動きを正しくするだけでなく、このような身体感覚、技法を磨いていくこともとても大事なのです。

おすすめ記事一覧

-鍛練体系
-

© 2024 兵法二天一流玄信会・東京支部