二天一流の二刀流(五法)23

鍛練体系

【二天一流剣術の体系⑥】勢法五法之太刀(五つの表)で二刀の技の使い方を学ぶ

これまで【二天一流の剣術体系】として、前八、抜刀術、勢法一刀之太刀、勢法一刀小太刀、勢法二刀合口と実際に二天一流玄信会で習う順番で解説してきました。

今回は、二天一流玄信会で習う最後の勢法(型)である「勢法五法之太刀(五つの表)」について解説します。

勢法五法之太刀の二天一流剣術における役割や鍛練する上でのポイント、実際の技法の中身について、画像・動画付きで解説します。

まずは、勢法五法之太刀の役割から解説します。

勢法五法之太刀の役割

『五輪書』には二天一流で学ぶ剣術の勢法(型)について「五つの表」しか記載がありません。当時、宮本武蔵はこの五つの勢法(型)だけで二天一流の技法は身につくのだと考えていたようです。

しかし、戦闘が日常ではなく、普段から帯刀しているわけでもない私たち現代人が、いきなり二刀流から学び始めても十分な技を身につけることができません。

そのため、私たちは前八〜勢法二刀合口の過程で、二刀を扱うための身体創り・身体操作を鍛練していくのです。

そしてようやく勢法五法之太刀に入るわけですが、勢法五法之太刀の役割は「太刀の道」を覚えることだと『五輪書』には書かれています。

『五輪書』における「太刀の道」について、現代語訳されたものを紹介します。

太刀を打ち下ろしては上げやすい軌道に上げ、横に振れば横に戻して、良い軌道へと戻し、十分に大きく肘を伸ばして強く振ること、これが〈太刀の道〉というものである。我が二刀一流兵法の「五つの表」を遣い覚えれば、〈太刀の道〉が定まって、振りよいものである。

『新編真訳五輪書』p.131

太刀の道とは上記のように、太刀筋を通し、太刀の動きに逆らわないように振ることを言います。そのためには、パワーやスピードを否定して、拍子にのって振る鍛練が必要であり、そのために勢法五法之太刀(五つの表)があるのです。

※ただし『五輪書』に書かれている「五つの面」と、当派に伝わっている勢法五法之太刀は、動きが異なります。

勢法五法之太刀のポイント

勢法五法之太刀を鍛練するポイントは、以下のものです。

  • 「五法之構」が根本にある
  • 拍子にのって鍛練する
  • これまでに鍛練してきたことを総動員する

順番に解説します。

「五法之構」が根本にある

細川家伝統二天一流では中段・上段・下段・左脇構・右脇構の五つの構えである「五法之構」と、この「五法之構」から繰り出す5つの勢法(型)である「勢法五法之太刀」は、ひとまとめにして「五法」としています。

勢法五法之太刀を鍛練するにあたって、正確な「五法之構」ができていることは大前提ですので、これができていなければ鍛練になりません。

そのために「前八」の五法之構の鍛練で、毎回の稽古時に五法之構を鍛練しているのです。

「五法之構についてポイントを羅列すると、以下のようになります。これが鏡を見ず、自然に取れるようになっていなければ、五法之太刀を正しく鍛練することは難しいかもしれません。

中段の構

  • 正面から見て、二刀の先端が重なっているか
  • 正面から見て、二刀が同じ長さに見えているか
  • 太刀が敵の右目、小太刀が敵の左目に付いているか
  • 胸を張っていないか

上段の構

  • 中段から上段の構に移行した時に、正中線が前後左右にブレていないか
  • 小太刀が「中段の構」と同じ位置からずれていないか
  • 右拳が右耳と同じ高さにあるか
  • 正面から見たときに、太刀の柄頭しか見えない状態になっているか(太刀全体が見えないようになっているか)
  • 脇が空いていないか

下段の構

  • 二刀の切先が自然に内側を向いているか
  • 肩の力が抜けて両拳が太ももに接しているか
  • 二刀や腕の重みを感じられているか(十分に腕が脱力できているか)

左脇構

  • 中段から左脇構に移行する時に、正中線が前後左右にブレていないか
  • 一重身になっているか
  • 小太刀が中段の位置から変わっていないか
  • 太刀が敵から見えないように身体に隠れているか
  • 両手が深く組み違えるように交差していないか

右脇構

  • 中段から右脇構に移行する時、正中線が前後左右にブレていないか
  • 一重身になっているか
  • 小太刀の位置が中段の位置から変わっていないか
  • 太刀の切先が、中段の位置から大きく変わっていないか(必要以上に離れていないか)
  • 太刀の切先が、打太刀の左目に付いているか
  • 右拳が右の腰の位置に付き、腕の力が抜けているか

拍子にのって鍛練する

他の勢法(型)でも同様ですが、勢法五法之太刀は特に拍子にのって鍛練することが大事です。

拍子にのるとは、打太刀との攻防の中で、打太刀の動きに対して速すぎず、遅すぎず、ちょうど良い拍子で動き、受け、斬るように鍛練するということです。

自分が一番攻撃しやすく、かつ相手が一番攻撃しにくい拍子・間合を鍛練することで「拍子」そのものを技として身につけていくことができます。

これまでに鍛練してきたことを総動員する

これまでの勢法(型)の鍛練の中で「一重身」「たけくらべ」「切先返し」「漆膠の身」など『五輪書』にも記載がある様々な技法、身体操作を身につけてきました。

勢法五法之太刀では、当然これらの身につけてきた技法、身体操作を総動員して鍛練することが大事です。

勢法五法之太刀の技法

それでは、勢法五法之太刀の具体的な技法について解説していきます。

以下の動画で、勢法五法之太刀のすべての勢法(型)をやっています。

中段

中段は、中段の構えのまま間合いを詰め、敵の斬りをかわしつつ斬り上げ、斬り下ろし、さらに斬ってくる敵に対し、小太刀で受けると共に敵を斬る勢法(型)です。

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流れは、中段に構えたまま右足から3歩進み、3歩目で打太刀の斬りをかわしつつ、同時に二刀を切先返しして斬り上げます。斬り上げたら両足をそろえ、全身を伸び上がるようにして二刀を頭上で十字に組みます。

十字に組んだところから、即座に右足を踏み込みながら打太刀に向かって二刀を振り下ろし、振り下ろしたところで下段に構え、打太刀の相対します。そこで打太刀がさらに正面切りをしかけてくるため、小太刀で斬りを受けると同時に右手の太刀で、打太刀の左手を下から斬り上げます。

中段のポイントは以下の点です。

  • すべての斬りを深く行う
    中段では、最初の斬り上げ、二度目の斬り下ろし、三度目の斬り上げと三度の斬りを行い、勢法(型)の流れの中で、しっかり当たるところで寸止めするのは三度目の斬りのみです。しかし、最初の斬り上げ、二度目の斬り下ろしも斬れる間合いで行う意識が重要です。
  • 最後の斬り上げは間合いによって変化させる
    三度目の斬り上げは、打太刀の左手を斬り上げる形ですが、拍子によっては変化させます。具体的には、こちらの動きが遅ければ、二刀合口の「切磋打留」の技で胴を斬りますし、もう少し速ければ右小手を切ることもできます。
    最も拍子が速い場合に、左小手を斬り上げることができます。この点は、組太刀でもその時の拍子によって使い分けることが大事です。

上段

上段は、上段に構えたところから斬り下ろし、打太刀の太刀を押さえ、打太刀が下がって攻撃してきたところを、受けると同時に、打太刀の太刀を打ち落とす勢法(型)です。

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流れは、上段に構えたまま3歩進み、3歩目で打太刀が正面切りしてくるため、それを小太刀でかわしつつ、左足を深く踏み込み、小太刀と上段から振り下ろした太刀とで、十字で打太刀の太刀を押さえます。

押さえると、打太刀は下がるしかないため下がっていきます。これを間合いを離さないように前進していきます。

打太刀は、さらに下がって刀を抜き、突きで顔を狙ってくるため、それを小太刀で受けて即座に太刀で払うようにして打ち落とします。

上段のポイントは以下の点です。

  • 前進する時に打太刀と間合いが空かないようにする
    二刀合口・漆膠之突のように、前進する時に打太刀に間合いをあけさせないことがポイントです。間合いがあくと、打太刀に攻撃する隙を与えてしまうためです。
  • 受けは肩甲骨を使う
    他の技法と同じですが、小太刀での受けは肩甲骨の動きで小太刀を反転させるように動かします。手首や肘を中心として動かすと関節や筋肉の負担が大きく、受けの威力が弱くなります。
  • 太刀が手からはらりと落ちるように払う
    最後に払いは、打太刀の太刀を遠くに吹っ飛ばすのではなく、足下にはらりと落ちるような強さ、拍子で払うように鍛練します。

下段

下段は、下段の構えから陰陽交差(十字受け)で打太刀の攻撃を防ぎ、切先返しで斬る勢法(型)です。

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流れは、下段に構えたまま右足から3歩前進し、3歩目と同時に陰陽交差(十字受け)で打太刀の正面切りを受けます。打太刀は下がってもう一度正面切りしてくるため、前進して再び陰陽交差(十字受け)で受けます。さらに、打太刀がもう一度下がって正面切りしてくるため、前進し「切磋払切」で受けと同時に打太刀を斬ります。

下段のポイントは以下の点です。

  • 受けの拍子は攻め立てるように
    下段では打太刀の斬りを二度受けますが、この受けの拍子が遅れると斬りの威力をもろに受けることになり、受けきれなかったり、隙を作ることに繋がります。そのため、受けの拍子は、受ではありつつも相手を攻め立てるような拍子で、強く前に出ながら受けるのがポイントです。
  • 陰陽交差でねばりをかける
    受けた後は、打太刀の太刀にねばりをかけ、前進し、打太刀に後退させます。打太刀からすると、受けたまま押し込まれ後退せざるを得ず、さらに前進してくるため無理な拍子でも攻撃せざるを得ない、という状況を作るようにすることが大事です。

左脇構

左脇構は、左脇に構えたまま前進し、敵を追い詰め切先返しで斬る勢法(型)です。

左脇構は、家屋の中などで右側に大きく振れない場合の構えです。

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流れは、左脇構のまま2歩進み、3歩目と同時に打太刀が正面切りしてくるため、それを小太刀で外し、同時に太刀で打太刀の右腕から胴を斬ります。

しかし、打太刀は下がってこれをかわし、また同様に正面切りしてくるため、同じく小太刀で外し、太刀で打太刀の右腕から胴を斬ります。

打太刀はまたこの斬りをかわすために下がるため、右足を大きく踏み込みながら「喝咄」のように突き・斬り上げ、斬り下ろします。

打太刀はこれを大きくさがってかわし、再び正面切りしてくるため、右に体を捌いてかわしつつ、小太刀で「一拍子内払」の受けで打太刀の斬りを受け、同時に太刀は順回転の切先返しで打太刀の頭めがけて斬り下ろします。

左脇構のポイントは以下の点です。

  • 半身を崩さないまま前進
    左脇構で前進する時に、半身に慣れていないと身体を正面に向けてしまいがちです。しかし、正面を向かず、自分の右半身しか相手から見えないように、半身を維持したまま前進することが大事です。
  • 間合いが近ければ途中でも斬る
    他の勢法(型)と同じですが、これも間合いが近ければ、一撃目、二撃目の払い斬りや、その後の喝咄途で斬ってしまって構いません。勢法(型)には決まった動きがありますが、打太刀・仕太刀互いに隙を探しながら行い、隙があれば変化して攻撃し、その隙を指摘してあげるのも大事な稽古です。
  • 敵を追い詰め動きを制限する
    これも他の勢法(型)と同じですが、左脇構でも、打太刀を攻め立てるような動き、拍子を意識し、打太刀が他の動きができないように追い詰めることが大事です。そのため、稽古だからと言って決まった動きをすることだけにこだわるのではなく、本当に斬るのだと思って鍛練します。

右脇構

右脇構は、右脇に構えたところから敵の攻撃を待ち、攻撃をかわしつつ喝咄で攻め、流水打留で決める勢法(型)です。

右脇構は、自分の左側が詰まっている場所を想定した構えです。

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流れは、右脇構に構えたところから打太刀の正面切りを待ち、正面切りをしてきた瞬間に小太刀で外し、同時に「喝咄」で斬り上げ・斬り下ろし、斬り下ろしたら瞬間、即座に「流水打留」で斬ります。

右脇構のポイントは、以下の点です。

  • 斬り上げで目を狙う
    右脇構は、構えて打太刀が斬るのを待つ技ですが、斬ってきたところを即座に喝咄で斬り上げます。この斬り上げでは、右手の太刀で打太刀の目を狙って斬り上げます。実戦ならそのまま本当に突いてしまうつもりで斬り上げるのがポイントです。
  • 喝咄は正中線を狙う
    最初の喝咄の動きは、打太刀の正面切りをかわしながら行うため、右側に体を捌いて斜めに喝咄の動きをしたくなります。しかし、ここで体を捌かず、真っ正面から打太刀の正中線を攻めるように喝咄で斬り上げ・斬り下ろすことが大事です。
  • 拍子によっては途中でも斬る
    これも他の勢法(型)と同じですが、間合いが近ければ最初の喝咄や、流水打留の最初の二刀での突きで斬り、突いてしまう意識で行うことがポイントです。もちろん組太刀では、実際には決まった動きをするのですが、稽古時には、互いに隙があれば変化して攻撃するつもりで鍛練します。

勢法五法之太刀の技の前後の動き

勢法五法之太刀では、それぞれの技の前後で中段の構での「敵付け」を行います。

敵付けとは、それぞれの技に入る前に構える動きのことで、勢法一刀之太刀、勢法一刀小太刀にも同様の動きがあります(一刀、小太刀の場合は、正眼の構で敵付けします)。

勢法二刀合口は、すべての技が下段から繰り出されるため、敵付けがありませんでした。

しかし、勢法五法之太刀は「五法之構」からすべての技が繰り出されるため、最初に中段に構え、次にそれぞれの技の構に移行する(「上段」の技なら中段→上段と構える)という流れになります。

以上が、勢法五法之太刀の役割と内容の解説でした。

これで、

前八→抜刀術→勢法一刀之太刀→勢法一刀小太刀→勢法二刀合口→勢法五法之太刀

というすべての二天一流剣術の体系について、概要を解説できました。

今後は、さらにそれぞれの技法や構えについて深掘りした内容を更新していきたいと思います。

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